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Evolution
飛躍

イメージセンサーが切り拓く新しい社会~積層技術によって広がる可能性~

紫綬褒章を受章した梅林拓をはじめ、ソニーのエンジニアたちが4年を超える歳月をかけて開発し、世に送り出した「積層型CMOSイメージセンサー」は、今やソニーのイメージセンサー事業を支える屋台骨。

モバイル用では、世界トップシェアを獲得し、多くのスマートフォンに搭載されています。さらに積層型は、モバイル用以外の幅広い分野のイメージセンサーでも使える構造技術として活躍の場を広げています。たとえば、クルマの自動運転技術への応用や、製造業でのファクトリーオートメーション化、小売店でのDX化など、データ取得を目的とした「センシング」でも積層技術が不可欠な存在となりました。

歴代のソニーの半導体エンジニアたちが、「綺麗な画像を残したい」、「映像文化を創造したい」という想いで、タスキリレーをつなぎながら育んできたイメージセンサーは、梅林拓らの手によって「積層型CMOSイメージセンサー」へと発展し、一部の領域ではすでに人間の眼を超え、人々のライフスタイルを大きく変えてきました。さらに、積層型CMOSイメージセンサーはこれから到来する新時代の社会インフラに貢献しようとしています。

積層技術の秘めた強さとは、イメージセンサーの選択肢を広げたこと。それは一体どういうことなのか。シリーズ最終回では、積層型CMOSイメージセンサーが社会にもたらすさまざまな価値、そしてその可能性に迫ります。

積層技術の進化を後押しする新技術

積層型CMOSイメージセンサーの実力を語るときに忘れてはならないのが、2015年にソニーが生み出した「Cu-Cu(カッパー・カッパー)接続」技術です。この技術は、小型と高機能を両立させた積層型CMOSイメージセンサーを、より小型化・高機能化し、かつ生産性をはるかに高めることになった影の立役者でした。

Cu-Cu接続は、積層型CMOSイメージセンサーの画素チップと論理回路チップを接合するときに利用する技術です。それぞれの積層面に形成したCu(銅)端子同士を接続することで電気的に導通させます。この技術を開発するまでの積層型CMOSイメージセンサーは、二つのチップの間で電気が通るように、シリコン貫通電極(TSV)と呼ばれるものが使われており、二つのチップにはTSVで貫通するのための専用領域を設ける必要がありました。

2000年代に入ってから、さまざまな研究機関や企業がCu-Cu接続の研究をしてきましたが、2015年にソニーが世界で初めてCu-Cu接続の量産技術を確立。TSVのために設けていたチップ上の専用領域も不要となったことで、よりサイズを小型化できることに加え、設計の自由度が増し、端子配置の高密度化が可能となりました。Cu-Cu接続の誕生が積層技術を飛躍的に進化させ、イメージセンサーの可能性がさらに広がったのです。

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SWIRイメージセンサーで
果物の材料選別を行っている様子

社会を支える重要技術に

Cu-Cu接続で進化した積層型CMOSイメージセンサー。社会と未来に向けてどのような価値をもたらしたのでしょうか。

積層技術の強みとは、画素部分と回路部分を2階建てにすることで、回路設計の自由度を向上させ、用途に応じたさまざまな機能を載せられるようにした点にあります。イメージセンサーに求められる高速化や多機能化、消費電力やコストの削減など、用途に応じた商品開発の選択肢を広げた技術として、積層型CMOSイメージセンサーは万能なプラットフォームとも言えます。

そのプラットフォームが提供する価値について、「モバイル」「車載」「産業」「ソリューション」の分野について見ていきましょう。

まずモバイルですが、スマートフォンのカメラ性能が著しく進化したのは積層技術のおかげと言ってもよいほどです。
たとえば、4K動画や明るいところから暗いシーンまでをとらえるハイダイナミックレンジ撮影、そして狙った被写体が動いている間でも自動でピントを合わせるAF(オートフォーカス)追従など、プロのカメラマンではなくても、小さくて薄いモバイル端末が1台あれば、誰でも美しい写真や動画が撮れるようになりました。また、コンパクトで薄いスマートフォンのカメラには大口径から望遠まで、複数のカメラが付いています。この積層技術によりイメージセンサーの外形を極限まで小さくできたことで、高精細で高機能なカメラの小型化が実現したのです。

車載用イメージセンサーでは、自動車の先進運転支援システム(ADAS)や自動運転(AD)の進化に伴い、夕暮れやトンネル出口付近の逆光下、暗い夜道といった環境下でも、人間の眼を超えて、より長い距離を正確にとらえることが求められます。長距離撮影に必要な高解像度な性能、また自動車のデザインを邪魔しないコンパクトなセンサーサイズを実現する上で、積層技術は重要な役割を果たしています。また独立した回路部分に、車載で求められる機能を実現するための最適なプロセス世代を選択できるようになったことも、車載用イメージセンサーの高性能化に向けた可能性を大きく広げました。

続いては、積層された回路部分にAI処理機能までも搭載したインテリジェントビジョンセンサー「IMX500」です。2020年5月に発表されたこの世界初のイメージセンサーは、デバイスの中で用途にあわせたAI処理を行える、いわば網膜と脳が直結する究極のチップです。現在、DXの普及とともにIoT機器からのあらゆるデータをクラウド側で処理していますが、この方法には限界が来ると言われています。IMX500は、イメージセンサーでAI処理した結果のメタデータ(データに属する情報)のみを出力。これにより、ある一定の条件で比較した場合、データ量が従来のイメージセンサーに対し1/7400となるため、クラウドへの送信データ量と送信後のデータ処理量が大幅に低減されます。クラウド側のメンテナンスに必要な消費電力の削減にも貢献が期待されています。個人を特定できないメタデータを扱うため、プライバシーに配慮できることも大きな利点です。

すでにローマ市の渋滞などの社会課題解決プロジェクトや、大小さまざまな店舗によるスマート化に向けた取り組み、スマートビルディングなど、社会のさまざまなところでIMX500を使った実証実験が進んでいます。

次に、産業用イメージセンサーです。製造や物流などさまざまな産業界では、自動化や省人化、高効率化の流れが加速し、カメラの性能を左右するイメージセンサーにも眼に見えない情報を正確に捉える性能が求められています。ソニーは産業界に向けて実に多様でユニークなイメージセンサーを提供していますが、そのうちのSWIR(短波長赤外)イメージセンサーは、積層技術を始めとしたソニーの技術とノウハウが凝縮されています。SWIR帯域をとらえることで、材料選別や異物検査、半導体検査など、人間の眼では識別が難しい検査も可能となるため、SWIR帯域に対応したセンサーは従来より活用されてきました。しかし、それらは小さいチップサイズで高い解像度で撮影することが技術的に実現できていなかったこともあり、本格的な普及が進んでいませんでした。ここでも積層技術は、業界最小となる画素サイズで小型化と高解像度化を実現し、さまざまな検査用カメラへ搭載を可能にしました。お客様のニーズを満たした使い勝手の良いこのイメージセンサーは、今後のカメラ用途の広がりに貢献し、多くの課題を解決に導いていくことでしょう。

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人々の感動と社会の豊かさのために

写真・映像への飽くなき探求心から始まったソニーのイメージセンサー開発。それが今や、さまざまな社会課題の解消に貢献し、人々のよりよい生活の実現に貢献するための技術として進化し続けています。

1964年、ソニーの創業者・井深大の「テープレコーダーとビデオが一体になったカメラがほしい」という思いから始まった、ソニーのイメージセンサー開発。今や、それがキレイな画を捉えるだけでなく、さまざまな社会課題の解消に貢献し、人々のよりよい生活の実現に貢献するための技術として進化し続けています。

それは、歴代のエンジニアたちが、未知の分野に自ら飛び込んで、数々の難問に対して悩みながら、果敢に挑み続けた歴史の積み重ねでもありました。これからもソニーのイメージセンサーの壮大な挑戦は続いていきます。挑戦する企業文化が、人々の感動と社会の豊かさを生み出すことを信じて。