スマートフォンへ応用されるイメージセンサー技術を、デモを交えながら説明。

イメージセンサーの設計と製造に関する講義。最先端の半導体が生産されるクリーンルームにおいて、生産に必要な室内環境や汚染を発生させない取り組みを説明。

自動運転に応用されるイメージセンサーに関する講義。講義を担当した女性社員は、「専門用語を多用せず、わかりやすい言葉で伝えることを意識した。学生目線の新鮮なアイデアを得られ、イメージセンサーの可能性を再認識できる貴重な機会だった」と語った。

スマートフォンへ応用されるイメージセンサー技術を、デモを交えながら説明。

イメージセンサーの設計と製造に関する講義。最先端の半導体が生産されるクリーンルームにおいて、生産に必要な室内環境や汚染を発生させない取り組みを説明。

自動運転に応用されるイメージセンサーに関する講義。講義を担当した女性社員は、「専門用語を多用せず、わかりやすい言葉で伝えることを意識した。学生目線の新鮮なアイデアを得られ、イメージセンサーの可能性を再認識できる貴重な機会だった」と語った。

FUTURE

イメージセンサー

女性エンジニア育成への挑戦!
大学・学生・企業の三方よしを実現した、奈良女子大学の「センサ工学」講義

2024.03.19

次世代人材育成に取り組むための包括連携を通じて、ジェンダーバイアス解消とダイバーシティ推進をテーマとした多面的な活動を実施している国立大学法人奈良国立大学機構奈良女子大学(以下、奈良女子大学)とソニーグループ。
その活動の一環として、奈良女子大学工学部は、2023年度の後期日程に「センサ工学」を開講。ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社(以下、SSS)は、各イメージセンサー分野の最前線で活躍するエンジニアたちによる授業を行いました。
この授業に込めた思いと得られた成果について、奈良女子大学の才脇直樹教授と佐藤克成准教授、そして今回のカリキュラム開発を担当したSSSの住岡徹次に話を聞きました。

才脇 直樹

奈良女子大学 教授
奈良カレッジズ連携推進センター長

佐藤 克成

奈良女子大学 准教授

住岡 徹次

ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社
イメージング&センシングエッジコア技術部門

さまざまな学問を応用し、自らの手と頭で研究開発を推進できる女性エンジニアの育成をめざす

── 奈良女子大学工学部がめざしている人材育成について教えてください

(佐藤准教授)
奈良女子大学工学部の特長のひとつに、『学科を分けない』ということがあります。通常は機械工学科や電気工学科、電子工学科といった具合に分かれているケースが多いと思いますが、学科をひとつにすることで、学生は材料工学や情報、生体医工学など、さまざまな分野に触れることが可能になります。

たとえば、情報エリアの科目の中に「計測工学概論」がありますが、この学問自体は材料工学や環境・建築工学、生体医工学を学びたい人にとっても有用な学問です。どんな学問にも他の学問が応用されることは多々あります。その科目がどのように役立つのか、応用できるのかを理解しながら、自分で手と頭を動かして試行錯誤しながら研究開発に取り組めるような技術系人材を育成したいと考えています。

(才脇教授)
特に私たちはヒューマンインターフェースの部分を専門にしていますので、ハードウェアだけでも、ソフトウェアだけでも不十分で、人間自身のことも分かっていてほしいと思っています。

たとえば、すばらしいシステムを作ろうと思ったとき、スペックをいくら追求しても、システムが使いやすいかどうかは別問題。ひとつの知識・観点に偏ることなく、さまざまな観点から設計していくことが重要です。

一つひとつの技術を磨いていって、○○%改善させるということも大事なのですが、その改善したことが本質的にどのような意味を持っているのか。自分の個性や興味を伸ばしつつ、多様な価値観や教養への理解を深めることで、建設的で視野の広い議論ができるような授業を心がけています。

── 全15コマのカリキュラムを構成するのは初の試みとのことでしたが、どのように企画を進められたのでしょうか?

(住岡)
SSSではいろいろな大学で講演を行ってきた経験があるので、それらのノウハウを活用できると考えていました。しかし、「90分の授業を全15回、センサ工学はソニーに丸ごとお任せしたい」とお伺いしていたため、正直それだけのコンテンツを揃えるのはかなり大変だなと感じましたね。その一方で、SSSが授業のカリキュラムを企画するのであれば、イメージセンサーの開発からさまざまな製品も作っているソニーグループの特長を活かした面白い授業ができるのではないかというイメージもありました。

イメージセンサーは、スマートフォンをはじめ、自動車やAR・VRなど、本当にさまざまなところに使われています。単にイメージセンサー自体の講義で終わるのではなく、それを活用することで何ができるのか、実際の製品などを通して見て感じてもらえれば、学生にとっても良い刺激になるのではないかと思ったのです。

また、毎回講義内容が変わるので、なるべく多様なバックグラウンドを持つ講師を揃えることも意識していました。特に女性の講師は、学生のロールモデルにもなると思ったので、多く揃えたいと考えました。
実際に各領域の第一線で活躍するSSSの社員とソニー株式会社の社員に講師を依頼したのですが、全員快諾してくれました。工学系の女性人材の育成に対して、皆のモチベーションの高さを感じましたね。

応用されるユースケースから逆算し、必要な基礎となる技術を考える。
今の時代に即した授業のモデルケースに

── 住岡から提案されたカリキュラムをどのように感じられましたか?

(佐藤准教授)
すごく面白いと思いました。大学ではどうしても基礎的なことから順序立てて講義を進めていき、最後に、その技術が使われている応用部分に触れる形になりますが、住岡さんが企画した授業は、多様な応用をテーマにしており、実習もあり魅力的な内容だと感じました。

使われるシーンから逆算して、そのためにはこういう技術が必要であるという入り方は、学生にとって興味深い授業になりますし、自分の知識に何が足りていないのか、これから何を学べばいいのかが明確になるメリットがあると感じました。

(才脇教授)
私たちが子どもの頃は、ラジオを分解するなど、機械の仕組みに対して実体験を持っていました。ところが今は、なんでも調べれば答えが分かる時代です。実体験を積む機会が失われた世代の工学部での学び方として、製品であるイメージセンサーの応用から入って、そこで使われている基礎となる技術に戻るという授業構成は、今の時代に即しているし、これからの授業のモデルケースになると思いました。

── 実際に行った講義の内容はどのようなものだったのでしょうか?

(住岡)
一番大事にしたのは、工学部を卒業した学生が企業に入った時、どのような仕事をするのかをイメージできるようにしようということでした。

私たちSSSが得意とするのはイメージセンサーですので、その解説から入り、学生に身近なスマートフォンへ応用されていることをデモも体験してもらいながら説明しました。また、イメージセンサーは、レンズを含めてカメラモジュールという形でカメラに搭載されるので、その授業も組み込んでいます。

スマートフォン以外では、自動車、産業機器、AR・VRなどのウェアラブルといったさまざまな応用、さらには地球の見守りといった人類・社会のためにとても重要な領域に貢献し得ることも解説しました。

また、イメージセンサーの設計と製造、自己位置推定や3Dモデル生成などの信号処理やAIの活用、そして実際にイメージセンサーとAIを組み合わせてボードコンピュータ上でソフトウェアを動作させる実習も実施することで、学生が将来企業に入り、自分で手を動かして研究・開発を推進するイメージを持ってもらえるように考えました。

女性エンジニアの話やオフィス見学を通して
将来の働く姿をイメージしてもらう

── 講義を受けた学生の反応はいかがでしたか?

(佐藤准教授)
少し難しいところはうまくポイントをかみ砕きながら解説していただいたので、学生の満足度は非常に高かったです。アンケートを見ても75%以上の学生が最高評価をつけていましたし、難しすぎてついていけなかったという意見はありませんでした。

(才脇教授)
授業を拝見して、ビジュアル的に説明するのが非常に上手だなと感心しました。

また、ソニーだからこそですが、実用化されている技術をベースに話をされるので、学生にとっては、『非常にリアリティがあり、信頼性の高さを感じる』という感想も聞けましたので、学生たちにとって非常に満足度の高い授業だったと感じました。

(佐藤准教授)
また、大阪オフィス見学や女性社員への質疑応答は、学生にとっては将来の参考になり、とても有意義だったと聞いています。実際に働いている人、特に理系の女性の働き方、働く現場を見る機会はなかなか得られませんので、とても良い刺激になったと思います。

── 15コマの講義をする上で、難しかったことは?

(住岡)
これまでの経験では、企業内での研修や大学院生への講義など、ある程度技術のバックグラウンドを持った方々でしたが、今回は大学2年生です。どれくらい理解してもらえるか、どの程度までかみ砕けばよいのか未知数でしたので、講義レベルにはかなり気を使いました。

その分、授業後のアンケートで感想や質問を拝見し、学生の皆さんが、かなり理解されていたと分かった時には、講師は皆とても喜んでいました。

「大学の学問と社会とのつながりがイメージできた」
授業の意義を感じたアンケートの意見

── 今回の取り組みを通して、どのような発見がありましたか?

(佐藤准教授)
やはり、実際に企業で働き、各分野で活躍されている社員から話が聞けたことは良かったと思います。将来、企業に入ってエンジニアになりたいと思ったときに、働き方をイメージできたのは良かったですね。

また、基礎から知識・技術を中心に積み重ねる従来式の講義に加え、応用を中心としてそれらに必要とされる知識・技術を学ぶ講義方法が、学生の意欲や理解度の向上に有効であると実感できました。技術の出口イメージを明確にすること、俯瞰的に要素技術のつながりを知ることの重要性を再認識しました。

(才脇教授)
センサ工学は演習の授業ではなく座学なのですが、座学・演習と分けるのではなく、座学の授業の中に実際に触り、体験する機会を設けることで、学んだことの理解促進につなげることができました。こうした授業の在り方は、今後の良い参考になりました。

また、さまざまなバックグラウンド(国籍、学生時代の研究内容や今の業務内容など)を持つエンジニアの方々から話を聞くことで、企業で働くときに求められるレベルや、基礎技術がどのように応用されて商品になっていくのかといったリアルな部分を知ることができたのは大きいと思います。

学生との面談でも「大学と社会は分断しているイメージだったけど、今回の授業を通して、大学の学問と社会とのつながりがイメージできた」という声が多く聞けました。

── 今後の展望を教えてください

(才脇教授)
今回の授業はとても面白い試みとなり、私も佐藤先生も学ぶことが非常に多かったと思っています。この経験は、私たち2人だけの経験にしてはもったいないので、大学のファカルティ・ディベロップメントの一環として、ぜひ他の先生方にも見ていただきたいなと思っています。これまでも教育の質を高めるために、学生の評価が高い先生の授業を見学するということは行ってきましたが、1人の先生が話しているという形は変わらないのです。

今回のソニーとの授業では、既存の座学の概念を越えて、どうしたら興味を持ってもらえるか、理解を深められるかという部分を純粋に深めていった結晶であると思います。こうした授業は学内に広く共有していきたいと思いました。

(佐藤准教授)
今後は一歩進んで、インターンシップのように学生自身が参加できるイベントまたはプロジェクト(たとえば授業からスピンオフする課外活動のような形で、授業を教えてくれたSSS社員とのコラボレーションなど)ができると、さらに教育の質を上げられるのではないかと、今回の取り組みを通じて思いました。

(住岡)
私が学生だった時は、工学部の同じ学科に女性の同級生はたった2人でした。同じような環境にいた人は多いと思いますが、イノベーションや新しい技術を生み出していくためには多様な人材が必要です。今回、貴重な経験をさせていただけましたので、講師を担当したそれぞれの社員が職場に持ち帰って、さらに女性エンジニアが活躍できるような環境づくりに生かしてもらいたいなと思います。

今回の授業を受けていただいた学生、女性エンジニアがたくさんSSS に来てもらえたらもちろんうれしいですし、ほかの企業に就職されたとしても、彼女たちの活躍により日本の工学が活性化されたら、より良い社会の実現につながるではないかと考えています。これからもさまざまな取り組みを積極的に行っていきたいです。

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