INDUSTRIAL

イメージセンサー

植物のストレスを可視化!
スマート農業に貢献するセンシング技術とは?<後編>

2023.06.21

前編では、農作物を育てる上で植物の環境ストレス応答を把握することがいかに大事であるかを紹介しました。後編では、これを可視化することで、実際に農業にどのように寄与するのか。そして今後、ハイパースペクトルカメラを活用することで、農業にどのようなインパクトをもたらすのか。二人の話を聞くと、SSSがめざすスマート農業の形が見えてきました。

── 今回のセンシング技術の強みはどこにあるのでしょうか?

(小川)
大きく2つあります。
1つ目は、この研究開発に関わっている人たちが皆、「好きでやっている」「つくったら早速自分で使おう」と思っていることだと考えます。 今回の活動は東北大学の基礎研究、SSSの技術開発、沖縄県農業研究センターの実証研究によって進められています。それぞれが“どうやって何に使おう”という魂胆を持っていたからこそ、コストが掛かったり、少し面倒となったりする開発や実証実験も、辛抱強く取り組んで乗り越えられたことが色々あります。
たとえば先行研究では、日の出前と日中の2回計測して引き算して求めるというものがありますが、自分で使うことを考えたら日の出前に測定しなくても済むための研究を真っ先にということになります。また、これまでのハイパースペクトルカメラは1つの撮像に数十秒は時間がかかります。足場の悪い圃場の中に三脚を立てたくはありませんし、立てたとしても沖縄では強い風がよく吹くので植物が揺れます。そうすると、手持ちも可能になったほうがよいですね。従来もこういったお客様の声を聴いて開発していなかったわけではありませんが、自分で使いたいなら無駄なことはしませんし、目的に向かっては三位一体となって強力に研究開発が進んでゆくということは非常に大きいと思います。

2つ目は、そういった目的に対して実現するための基礎技術を持っているのがSSSだということです。先ほどお話した、一般的なハイパースペクトルカメラは撮像に時間を要するのに対して、今回のハイパースペクトルカメラは、短時間で、普通のカメラのようにシャッターを切るだけで撮像できます。目標や理想に対してそれを具現化する手段をどれだけ持っているか、長年培ってきたSSSの光学的な基礎研究技術や将来出てくるであろう研究開発中の技術も念頭に入れて検討を進め、目標もまた現実的なところに落とし込んでゆくというのが上手く回っていると思います。

(玉城)
これまでの光合成速度の測定では、多くの場合、測定対象となる葉は一枚でした。園芸施設内の植物群落を対象とした計測方法もありますが、多くのセンサーが必要となることや測定時にCO2の流入を一定時間止めなければならないなど、特殊な環境を用意する必要があり、測定に手間がかかりました。近年は、ドローンなどに搭載した植物のセンシングが流行っていますが、我々が取り組んでいる技術のように、刻一刻変化する植物の環境ストレスや光合成速度をカメラで即座に測定できるセンシング技術ではないですね。

(小川)
今私たちが行っている研究では、広範囲の植物群落の計測を目的としながら、葉一枚を区別できる高解像度のセンシングで、測定すべき箇所がどこであるか、またその箇所もそれぞれ違った動きをしているということを意識して計測を組み立てています。人間でも心音を聞きたいときに、足とか手に聴診器を当てても正確な診断ができないし、胸とか背であったとしても場所ごとに違う何かを把握して診断につなげているかもしれません。植物も光合成を行う葉について、仕組みを理解して計測することが重要です。私たちは大学との研究を通して、どこを測定すればよいかという学術的な部分もカバーしています。

今後導入される予定のハイパースペクトルカメラ

農業の熟練度を補い、収穫拡大にさらには品種改良にまで広がる活用シーン

── ハイパースペクトルカメラの今後の可能性について教えてください

(玉城)
光合成やNPQ*1を測定するという話をしてきましたが、この二つがわかるようになると、もっと他のこともわかるようになるはずです。NPQは低いのに、光合成も進んでいないということになれば、病気や虫、もしくは樹木自体に問題があるのではないかと、焦点を絞ることができますし、そうすれば対処も迅速になります。焦点を絞った対処であれば、少ない人手でもできるので、人手不足の課題、そして若手・ベテランに関わらず、収量が確保できることによる経済的な課題に大きく貢献してくれると思っています。
こうした状況把握は、できるようでこれまでできなかったことなので、このハイパースペクトルカメラに大いに期待しているところです。

特にこのハイパースペクトルカメラは高解像度で撮影できる点がとても優れていると感じています。
下記合成画像Aのように一枚一枚の葉の形も分かるように撮影されていて、そこに色が付いた状態で確認できます。この色彩で、ストレス状況や光合成がどのように行われているかが判別できるのです。研究者は数値さえあれば評価できますが、普通の農家さんにとっては難しい。それが色彩で判断できるようになれば、誰もが扱える技術になると思っています。

また、品種改良という分野でもこのカメラは活躍してくれると思っています。
成長を速くする、大きな果実をつくるという点において、光合成は非常に重要な部分を担っているので、品種改良の結果、それがどのように成長しているのかをカメラで計測することで、技術的な支えになると思います。
ストレスに強い品種改良を進めるのであれば、実際に以前の品種と比較することが畑レベルで計測できるようになり、より正確な検証が可能になります。

*1) 集めた光エネルギーを、光合成に使わず、熱として捨てる仕組み(Non-photochemical quenching)

合成画像A

── 沖縄県農業研究センターは、今後SSSにどのようなことを期待しますか

(玉城)
大学との研究の場合、研究設計の通り進めればある程度の成果が見えてきます。製品開発においてもある程度の手法があって、それにのっとりつつ新しいアイディアを組み込むことで、試作品を作りあげてきました。
しかし、今回のSSSとの取り組みは、先端技術を駆使しているということもあり、やりながら新たな問題に直面します。想定外の課題と直面しながら一つひとつ解決していっています。こうした新しい課題や発見は今後必ず役に立つと思っているので、これからも一緒に頑張っていきたいと思っています。

── SSSは今後、スマート農業にどのように関わっていくのでしょうか

(小川)
営農現場での生産性を上げる話以外にも、SSSとしては地球環境に貢献していくという視点を持っています。たとえば肥料をやりすぎてしまえば、残った肥料は河川に流れ出て、河川の汚染につながっていました。限られた淡水資源を効率的に使えるようにするとともに、河川の環境も守る。そうしたことにも貢献できるようにしていきたいと思っています。

また、私個人としては、家庭菜園が趣味だったこともあり、とても楽しく研究しているので、しっかりとした成果を出して、SSSと沖縄県の農業に還元できるようにしたいと思っています。

(玉城)
私たちは熱意がない方とはいい仕事ができないと思っています。小川さんだから一緒にやっているという側面もありますので、ぜひ、このまま一緒に頑張っていただきたいです。