INDUSTRIAL

エッジAIセンシングプラットフォーム

AI・IoT活用を加速させる!
エッジAIを誰もが使える世界をめざして。

2023.06.08

さまざまなデバイスがインターネットにつながるIoT(Internet of Things)により、私たちの生活は便利になりつつありますが、その一方で問題となっているのがデータ量の増大。数千、数万というデバイスからのデータを一度にクラウド上に送信し処理することは、通信および計算に過大な負荷がかかるため、画像や映像といった容量の大きなデータは扱えませんでした。
この常識を一変させたのが、ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社(以下、SSS)のエッジAIセンシングプラットフォーム「AITRIOS™」*。必要な画像・映像情報をデバイス内で処理しそれらをクラウドから管理することで、データ量を大幅に削減し、大規模なVisionデータのクラウド活用を可能にしました。
今回はSony Semiconductor Solutions AmericaでAITRIOSのビジネスデベロップメントを担っている渡邊翔太に、IT最先端の地であるアメリカで、どのようなソリューションが生み出されているのか、そしてAITRIOSを通じて成し遂げたい夢について聞きました。

渡邊 翔太

Sony Semiconductor Solutions America

2007年 新卒入社。半導体事業本部にてゲーム機向けSoC開発に従事。主にバス、メモリコントローラ等の回路設計を担当。2013年 イメージセンサー事業部に異動し、HDR(ハイダイナミックレンジ)合成などの画質改善回路、電子手振れ補正など新規機能の回路設計・導入を担当し、2016年の認証機能付きセンサー開発PJを契機に、ビジネスデベロップメント系業務へ業務の幅を広げる。以来、顧客開発・要求探索の業務に従事し、センサーと後段ソフトウェア、クラウドを連携したセンシング向けシステム/ビジネスモデル開発を担当。
2021年2月よりアメリカ・ワシントン州へ海外赴任。マイクロソフト社とのパートナーシップを強化し、AITRIOSのビジネスデベロップメントを担当。

増大するデータを扱うために要となるのは、価値のある情報だけを抽出できるエッジAI

── 企業がIoTやAIを活用するにあたっての課題とは?

IoTと聞くと、インターネットに接続されたさまざまな端末に付いたセンサーの値を、収集・分析して集中管理することをイメージされると思います。取り扱うデータが単純なセンサーの数値(温度や気温など)であればそこまで問題はないのですが、ここに画像という要素が入ってくると、途端にシステムが複雑になります。

画像や映像データは、何百万ものピクセルそれぞれがとらえた「光の強弱」の情報の羅列であるため、データとして重く、必要な処理量も大きくなります。この膨大なデータをそのままインターネットでクラウドに送って分析しようとすると、送る側も受け取る側もコストがかさんでしまいます。

たとえば、セキュリティカメラやIPカメラをサーバーにつないでAIで大規模な処理をさせようとすると、何万というカメラからストリーミングされた映像を処理することになり、計算処理にはかなりのコストがかかります。

一方で、IoTデバイスは、何万、何十万個のセンサーをつなぎ、分析することで、管理・運用を効率化していくものなのですが、このような小さなIoTデバイスでは画像や映像データは大きすぎて扱えないという実態があります。

私たちは今後、IoTが画像を含めたより多様な情報を扱い、より深く社会実装していく上で、この2つのデバイスができていない領域、つまり、複雑な情報を扱いながらもIoTセンサーのように大規模な使い方ができるソリューションが必要だと考えました。

そこで活躍するのが「エッジAI」です。膨大な画像データから、必要な情報“だけ”をクラウドに送ることで、データ量を数千~数百万分の1に削減できるので、効率的なシステムの実装が可能になります。

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── エッジAIセンシングプラットフォーム「AITRIOS」の特長を教えてください

私たちはセンサーの特性と、画質のチューニングについて知り尽くしています。

今までイメージセンサーの設計は主に「人の眼が見て美しいと感じること」を目標としていたのですが、エッジAIで活用するためには、「美しい」ことよりも「目的に応じたAIがより正しく判断できること」が重要視されるようになってきています。

たとえば逆光のシーンでは、通常のカメラの場合、窓から見える屋外の空も、室内のテーブルの上に置いてあるものも、白飛び・黒つぶれしないような制御をすることが多いのですが、たとえば会議室の人数を検出する、という目的のAIにとっては、窓の外は気にせず、屋内の様子を的確にとらえるようことに的を絞って最適化した制御の方が良い結果が得られます。

AITRIOSは、こうした私たちがこれまで培ってきたイメージセンサーのノウハウを誰でも使えるようにしたプラットフォームをめざしています。

もう一点、大きな特長としてはプライバシー配慮があります。
センサー側で必要な情報だけに処理した上でクラウドに送信するので、たとえば、「人の数」などの抽象化された情報だけを送り、「画像」というデータには含まれてしまっていた顔や性別、服装などの情報を一切外部に出力せずにシステムが設計できるので、より柔軟にプライバシーを配慮する仕組みを設計できます。

流通、スマートシティ、次々と広がるAITRIOSのユースケース

── 実際の活用事例を教えてください

流通業のお客さまの事例では、現場データに基づいた仮想空間(デジタルツイン)で経営リソースの最適なマネジメントや業務オペレーション改善をめざしたソリューションを共同開発しています。

流通業界では、大量の荷物を一時保管場所に移す作業は多大な労力と時間を費やすため、大きな問題となっていました。そこで、倉庫に運ばれてきた荷物を効率よく配置するため、センサーにAIを組み込んだインテリジェントビジョンセンサーIMX500でダンボールを検知し、棚の充填率や空きスペースを把握。荷物の収納場所や棚までの導線を従業員に指示することで、従業員の労力と時間の短縮を実現しています。

また、ローマ市の渋滞などの社会課題を解決するためのスマートシティ実証実験にもAITRIOSは活用されていますし、ここアメリカでもいくつかのお客さまと話が進んでいます。

街の中をモニタリングしようとすると、何万とある信号機にカメラを設置して、その映像をクラウドに上げて管理することになります。
こうした際に、交通量や、交通事故になり得る危険な状態の有無をリアルタイムでモニタリングするためには、カメラ側である程度処理しないとクラウド上での処理は間に合わなくなります。
こうした多数のカメラに対してそれぞれ最適化されたエッジAI処理が可能になり、AITRIOSでつながれているインテリジェントビジョンセンサーIMX500の利点を活かした、これまでにないソリューションが提供できていると思っています。

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── こうしたソリューションは、SSSから提案するのでしょうか?

最初のきっかけは、我々からだったり、お客さま側からだったり、どちらの場合ももちろんありますが、お客さまと議論しながら新しいアイデアが生まれるケースが多い、というのが非常に面白い点です。

たとえば会議室の人数をモニタリングして、人がいなくなったら空調を制御するといった使い方ができることを説明すると、お客さまの方から、「それならこういう使い方もできないか」という新しいアイデアの相談を受けたりします。私たちは、その使い方に最適なシステムをお客さまと一緒になって開発しています。

AITRIOSは、これまで世に存在しなかったものなので、私たちだけではなく、お客様やパートナと一緒に作りあげていくことで、さまざまなソリューションが生み出せるようになると考えています。

── AITRIOSを開発する上で苦労した点を教えてください

私の立場からは、ビジネス上のお話をします。
まず、一番大きな苦労は、AITRIOSの可能性の広さです(笑)。既存カテゴリの新商品ではないので、お客さまの期待や課題に応じて、さまざまな角度からAITRIOSのメリットをお伝えする必要があると同時に、多角的なアプローチが必要です。
「映像を使ったAIソリューションです」というシンプルな説明ではなく、沢山のカメラをIoTセンサーのようにクラウドに連携することが、お客様のアイデア、潜在的な課題につながって、「じゃぁもしかして、こんなことにも使える?あんなこともできる?」というインタラクティブな会話を生み出し、その中から本当の“ソリューション”が生まれます。
私たちは、豊かな社会を作っていくためには、人と、人とのインタラクションがとても重要だと考えています。お客さまの課題と我々の技術が出会うことで解決することができたり、お客様の技術が組み合わさってより大きな課題に取り組めたり、検討を進める中でお客様も気付いていなかったより大きな課題に気付くことができたり。

AITRIOSはネットワークを利用したプラットフォームなので、こうした部分でもパートナーマッチングシステムとして活躍していけると思っています。

難しいことにチャレンジすることで自分を成長させていく

── アメリカへの赴任の経緯を教えてください

私は学生時代にバドミントンをやっていたのですが、大会で優勝するような、ものすごくうまい選手と試合するよりも、敵わないながらも、調子が良ければギリギリ勝てるかも、くらいの自分より格上の人とやるのが一番上達できるという実感がありました。

会社に入って、仕事においてもその考えは変わらず、常に1ランク上のチャレンジングな仕事に取り組もうと心がけてきました。新機能の初めての導入や、AITRIOS以前にもクラウドシステムとの連携プロジェクトなど、新しい課題、まだ解き方が確立されていない問題に挑む業務が多かったと思います。

アメリカへの赴任は、その中の1つのプロジェクトでご一緒させていただいていた、今の事業部長からお声がけいただきました。当時まだAITRIOSという名前も付いていないころからの試行錯誤でしたが、新しい領域でも物怖じしないところを買っていただいたのかもしれません。
期待に応えたいという思いと、自分としても成長できる絶好の機会だと思い、アメリカ赴任を決意しました。

── シアトルに着任して、特に思い出に残っていることを教えてください

着任して最初の週末に出かけたのが、近くにあるタコマナローズという橋です。
この橋は1940年に竣工してすぐに一度崩落してしまったという歴史があるのですが、原因は当時まだ知られていなかった自励振動という現象でした。
エンジニアたちはこの原因を突き止めた後、設計をやり直して現在の橋を完成させ、また、以降に世界中に建造された橋に対策が取られることになったというストーリーがあります。
一見うまく行かなかったように見えることでも、そこから学び、必要な修正することで世界に大きな貢献をすることができる、という実例を自分の目で見ることで、来る難題に対して立ち向かう自分の気持ちを奮い立たせました。

── 渡邊さんがAITRIOSを通じて成し遂げたい夢は何ですか

私たちのAITRIOSの開発モチベーションは、今スマートフォンで誰もが写真撮影を楽しめるように、エッジAIによってもたらされる利便性を、子どもからお年寄りまで社会全体に届けることによって、豊かな社会づくり、もっと便利になる社会づくりに貢献したいという強い思いがあります。この橋のエンジニアに倣って、私たちもどんな困難にもくじけずにやり抜こうと思っています。

AITRIOSは、全く新しいシステム・商品。これからAITRIOSをアメリカ市場に浸透させていく原動力として、渡邊のチャレンジ精神と、最新の技術を援用する調査力・応用力に大いに期待したいと思いました。

*) AITRIOS、およびそのロゴは、ソニーグループ(株)またはその関連会社の登録商標または商標です。