【焦点】リサイクルの非効率。
カギを握るのは「電子の眼」

デジタルカメラやスマートフォン、自動運転、防犯カメラ……。
いまや生活やビジネスのあらゆる場面で使われ、人間の眼でいう“網膜”のような役割を果たす半導体をご存じだろうか。それは、「電子の眼」ともたとえられる半導体、イメージセンサーだ。
(画像提供:ソニーセミコンダクタソリューションズ)
見たままの感動を伝えるために進化してきたイメージセンサーは、画質の向上を目指す「イメージング」技術の枠を超え、眼に見えない世界をも認識できる「センシング」技術でも急成長を遂げている。
いま、イメージセンサーは「センシング」技術によってどのような産業領域に普及が進んでいるのか。また私たちの社会や日常をどのように変えるのか。
イメージセンサー市場で世界トップシェアを誇る、ソニーセミコンダクタソリューションズ(以下、SSS)グループのイメージングシステム事業部 統括部長の関口 知弘氏と、SSSのイメージセンサーを導入したソリューションで、社会に資源革命を起こすことを目指すトムラ・ジャパン株式会社の代表取締役社長 ソニー・ソーダーバーグ氏に話を聞いた。

人の眼による認識を超える「電子の眼」

── 普段、生活するなかで「イメージセンサー」を目にしたり、直接触れたりできる機会はありません。そもそもどのような役割を担う半導体なのでしょうか。
関口  イメージセンサーは、よく「電子の眼」にたとえられます。デジタルカメラやスマートフォン、車載用カメラなど、実にさまざまなところで使われている半導体です。
カメラのレンズから入った光を電気信号に変換し、画像データとして出力することができる、いわゆる人間の眼でいうところの網膜に相当する役割を担っています。イメージセンサーの性能によって、カメラから生成される写真や動画の質が大きく左右されます。
長い間、イメージセンサーは、鑑賞目的での撮影文化を進化させてきましたが、今はすでに人間の眼を超える性能を持つようになり、超高速で動くものや暗闇にある物体などを的確に認識できるようになってきています。
また人間の眼は「可視光」(およそ400 nm 〜 780 nmの波長範囲の光)と呼ばれる範囲の光しか見えませんが、イメージセンサーは紫外線や赤外線のような人間の眼に見えない光も捉えることができますし、対象物との距離情報を計測することも可能です。
この画像からデータを抽出・認識する「センシング」と呼ばれる技術は、近年、加速するDXによる効率化の動きとともにニーズが高まっています。
── 「センシング」技術は、どういった用途で使われているのでしょうか。
関口  一言に「センシング」といっても、さまざまなニーズに応じたセンサー群が使われています。たとえば運転支援機能を搭載した自動車では、視界の悪い環境下でもはるか先の障害物を検知できます。
今後、本格化が予想される自動運転技術では、イメージセンサーが「車の眼」となり周囲360度を検知することで、早い段階から危険回避行動を支援することができます。セキュリティ領域では、暗いところの情報も認識できるので、市街・施設の異常検知や防犯対策などで活用されています。
ほかには、物流倉庫内での荷物のバーコード識別、製造ラインでの外観検査、半導体工場での異物検査など、実は私たちの生活の裏側にあるさまざまな領域を多様な「センシング」技術が支えているんです。
また最近では特に、気候変動や資源循環などサステナビリティ領域でのニーズが高まりを見せています。その一例が、リサイクル領域です。
リサイクル工程では、素材の正確な選別作業が必要となります。たとえば透明のプラスチック素材は、人間の視覚情報だけでは一瞬で判別できないことがあります。
そこで、素材の選別を高速かつ正確に行うためにイメージセンサーの活用が進んでおり、社会の基盤として活躍の幅を広げ続けているのです。

資源回収システムを最適化する

── そのイメージセンサーを活用し、飲料容器などの自動回収機の開発・提供を行うのがTOMRAです。まずは事業について詳しく教えてください。
ソーダーバーグ  私たちは、ノルウェーに本社を持ち、資源価値を持続する循環システムをつくることで、社会に“資源革命”を起こすことを目指す会社です。日本を含め、世界中に事業を展開しています。
現在、多くのプラスチックが使い捨てにされており、焼却時の温室効果ガスの排出や、海への流出による海洋汚染、そして原料となる石油資源の枯渇などが深刻な問題となっています。
そこで私たちは、使用済みペットボトルの自動回収機の開発と社会実装を入り口に、資源循環システムを最適化することで、地球の持続可能性を高めることに貢献したいと考えています。
具体的には、主にスーパーやコンビニなどにペットボトルの自動回収機を設置し、生活者から回収した容器を最適化したプロセスで輸送します。高度なリサイクルループの構築に挑戦をしています。
私たちの自動回収機にペットボトルを入れると、素材や形状等の情報を瞬時に識別し、他の廃棄物と選別して回収することが可能です。これにより異物が混入することなく、高品質な資源を確保できる。「ボトル to ボトル」等の再利用につながるなど、リサイクルに適した状態で資源を提供することができます。
── 日本では基本的に、家の近くやマンションに収集所があり、そこへ仕分けしたごみとして出せば回収してもらえます。そもそもなぜ自動回収機の活用が必要になるのでしょうか。
ソーダーバーグ  日本には、生活者が分別してリサイクルに回すとインセンティブが受けられるという、デポジットリターン制度がありません。
それでも、すでにペットボトルが9割以上回収されている稀な国です。海外ではデポジット制が広く導入されており、空き容器を販売店へ持っていくと、お金や商品券が戻ってくる仕組みを使って回収されていることが多いですから。
日本では現在、飲料容器のメジャーな回収は、自治体による回収です。家庭から排出される容器は、ごみの回収と同じように自宅の近くまで取りに来てくれる、便利なシステムです。
しかし、その日本の仕組みが最適化されているかというと、決してそうではないと考えています。
現在の自治体による一般的な回収方法は、出されたペットボトルをそのまま回収して、施設に集積してから選別や減容(圧縮などで容量を減らすこと)を行っています。
このやり方では、集めたペットボトルのキャップやラベルが付いたままだったり、ペットボトル以外のものや、リサイクルできないプラスチック容器が混ざっていたりと、施設で選別する手間が膨大にかかります。
また圧縮されないままのペットボトルは容積が大きく、収集所も多数点在するため、資源収集車の出動回数が非常に多い。この過程で多くのCO2も発生しています。
このように非効率、高コスト、環境負荷の高い仕組みが、税金で運用されているのです。
── TOMRAの自動回収機だと、その仕組みはどう変わるのでしょうか。
ソーダーバーグ  私たちの自動回収機は、スーパーやコンビニなど、生活者が日常生活で使う場所に設置されています。時間に縛られない資源排出の選択肢として利用が広がっており、店舗の買い物などで使えるポイント付与も好評です。
そして回収したペットボトルをその場で圧縮することで容量を小さくし、店舗の保管スペースを縮小します。さらに資源収集車の出動効率を改善することで、輸送コストを削減する。同時に、収集車から発生するCO2量削減にもつながり、環境負荷の低減にも貢献しています。
またリサイクルに適したペットボトルであるかどうかは、回収したその場で識別・選別されます。適さないものは回収機が受け付けないので、集めた資源は選別・減容専門の中間処理施設を経由することなく、リサイクル施設へ運ぶことが可能になります。
このようにペットボトルという資源価値の再利用に加えて、物流システムを最適化することで、直接CO2削減にも貢献する等、環境、経済の両面で有効かつ持続できる仕組みを構築し、社会に根付かせようとチャレンジしています。

「スピード」と「正確さ」の両立がカギ

── 資源回収システムを実現するために、なぜイメージセンサーが必要だったのでしょうか。
ソーダーバーグ  このシステムを実現するには、システムの入り口でもある資源の「選別」のプロセスがカギとなります。
私たちが開発した新たな「選別」技術である「TOMRA SharpView™」は、単一の画像を用いて、物体を高精度かつ高速に選別することが可能です。
生活者から持ち込まれた大量の飲料容器を瞬時に識別し、容器の素材、色、形状などを正確に読み取ります。この技術により利用者を待たせることなく、選別と減容処理、さらに価値の高い資源の回収が実現できます。
そしてスピードや精度に対する私たちの高いグローバル基準を満たすセンサーが、SSSのイメージセンサーだったのです。
── 採用されたイメージセンサーについて教えてください。
関口  私たちは、TOMRAの自動回収機に内蔵されるカメラ用に、SSS独自のグローバルシャッター技術「Pregius™」を搭載したイメージセンサーを提案しました。
Pregius技術を搭載したイメージセンサー。※自動回収機搭載モデルとは異なる(画像提供:ソニーセミコンダクタソリューションズ)
一般的なCMOSイメージセンサーでは、光を電子に変換した信号を、順次出力します。そのため高速に動く被写体の場合、被写体が歪んでしまい、形状や文字などの判読が難しいことがあります。
しかしPregius技術は、被写体全体の電子信号を一旦画素に配置したメモリーに貯めてからまとめて出力することが可能になります。高速で動く物体でも、高い精度で歪まず捉えることができるようになります。
この技術はほかにも、製造ラインにおける検査や、大量の荷物を識別して仕分ける物流倉庫など、高速に動く被写体を正確に確認・検査する用途で活用されています。
TOMRAの自動回収機でも、Pregius技術によって、飲料容器の種類や形状の判別を瞬時に行うことができ、同社が目指す循環型社会の実現にも貢献できると考えました。
── イメージセンサーは各社からさまざまな製品が提供されていますが、なぜSSSの製品の導入に至ったのでしょうか。
ソーダーバーグ  機能としての決め手は、大きく4つあります。スピードと解像度の高さ、低ノイズ、歪みが生じないことです。
導入を決めた4つの理由
1.高速撮像能力:高速でボトルを識別できる。
2.高解像度:容器の形状や材質などの情報を正確に判別できる。
3.低ノイズ:映像ノイズが少ないので情報を誤認識しない。
4.歪まない:高速で動くボトルを瞬時に歪みなく撮像し、正確に識別できる。
実際、SSSのイメージセンサーを導入したことで、処理速度や識別の精度が上がり、生活者の体験価値やシステム全体の処理スピードも向上していると実感しています。
ただこれらの性能はもちろんなのですが、やはりSSSであれば良い製品を提供してくれる、という“安心感”は大きかったです。
自動回収機は、設置してから10年以上継続的に使用されるプロダクトであり、それだけ長い間耐えうる性能を求めた場合、やはりSSSのセンサーが適していると考えています。

生活者の「体験」を変える進化を

── イメージセンサーは、今後私たちの社会やビジネスをどのように変えていくと考えますか。
ソーダーバーグ  そうですね。私たちのビジネスだけでも、さまざまな可能性が考えられます。
たとえばボトルの形を認識できることを活かして、飲料メーカーと連携して特殊な形のボトルをつくる。消費者がそれを回収機に投入するとポイントアップするようなキャンペーンも展開できるでしょう。あるいはペットボトル以外のプラスチック素材などでつくられた容器用の回収機の開発についても可能性が生まれるかもしれません。
私としては今後、この自動回収機の広がりによって、リサイクルに対する「生活者の意識」を変えていきたい。容器の分別排出は、生活者にとって最も身近な環境活動です。
そのためには自動回収機にペットボトルを入れるというアクションをより価値ある体験にしたいですし、逆にごみ箱感覚で投入したペットボトルが「ラベルを取ってください」と突き返される経験も環境について考える良いきっかけになるのではと考えます。
そうした体験を提供することで、リサイクルについて考えるきっかけや環境意識を育むことに貢献できればと考えています。
そして、その体験の裏側ではイメージセンサーの活躍が必要不可欠です。SSSのイメージセンサーがさらなる進化を遂げることで、私たちのプロダクト、ひいてはその先の生活者の体験や意識を一緒に変えていけると嬉しく思います。
関口  ありがとうございます。私自身も、単純に技術の進化や利便性を追求するだけでなく、イメージセンサーが活用された先の社会や生活者にどんな価値を提供したいかを考え、日々開発に向き合うことを大切にしています。
イメージセンサーは、リサイクル領域のほかにも、極めて産業のインフラに近いさまざまな分野で活用されているものです。
今後、他の領域にも活用が拡大することで、私たちの生活を裏側で支え、いつの間にか人々の体験をより良いものに変えている。そう考えると、とても意義のある仕事をしていると、今日のお話を聞いて改めて実感することができました。
私たちは、「テクノロジーの力で人に感動を、社会に豊かさをもたらす」というミッションを掲げていますが、これからも技術の力を人や社会のために役立てていきたい。
そして「Sense the Wonder」というコーポレートスローガンの通り、人が何かを感じ取る「Sense」と、人から生まれる好奇心「Wonder」に寄り添うテクノロジーの可能性を切り開いていきたいと考えています。
これからもTOMRAをはじめとする世界中のパートナー企業とともに、社会や人の生活を支える技術を提供し、世の中のみなさんの好奇心を刺激していけるような挑戦ができればと思います。
制作:NewsPicks Brand Design
構成:シンドウサクラ
撮影:竹井俊晴
デザイン:小谷玖実
編集:君和田郁弥
https://newspicks.com/news/8177743

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