STORY

人材育成

CMOSイメージセンサーの品質向上を実現!世界初の技術開発に挑み続ける開発者のDNA

2022.08.24

現在、幅広い用途で利用されている裏面照射型CMOSイメージセンサー。ここまで広く普及した要因の一つに、画質悪化の原因となる暗電流*1を抑制する技術があります。イメージセンサーの画質特性を劇的に向上させることに成功したこの技術のインパクトは、業界の情勢を一変させるほど。2011年に特許を取得すると、2020年には、公益社団法人発明協会主催の令和2年度 全国発明表彰において、発明賞を受賞。受賞者であるソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社(以下、SSS)の押山は、この特許技術を入社わずか2年目に考案し、その2年後に量産化を成し遂げました。
「逆転の発想で生まれた」という押山の特許技術。業界のゲームチェンジを引き起こす発明はどのように生まれたのか詳しく話を聞くと、誰もが参考となる仕事に対する姿勢、考え方が見えてきました。

*1) 光電効果により光電流を生じる装置において、光を照射しない時にも流れている微弱な電流。熱的要因や絶縁不良のために生じる。

押山 到

ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社
第2研究部門

プロフィール:2006年ソニー株式会社入社。先端MOSのプロセス開発に従事後、裏面照射型CMOSイメージセンサーのプロセス開発へ従事し、 固定電荷膜技術開発、画素間Deep Trench Isolation技術開発、光電変換面モスアイ化技術開発 などの業務を担当。2017年にインテグレーション/成膜技術開発の統括課長となり、現在に至る。

入社後初めて体験した挫折を糧に
逆転の発想で生まれた特許技術

押山が発明賞を受賞した技術は、イメージセンサー内の光をとらえ電子に変換するフォトダイオード(PD)に発生する暗電流を抑制する技術。暗電流はイメージセンサーにおいて、画質特性を悪化させてしまう邪魔者で、暗い場所を撮像する際、暗電流があると暗い部分を黒く表現できず、白っぽくなってしまいます。

暗電流とは?の図

ならば、この暗電流が発生しないように製造すればよいと考えられますが、製造過程でどうしても発生してしまうのです。そこで考案したのが、フォトダイオードを固定電荷*1膜で覆い、暗電流の発生を抑えるという技術。「この技術は逆転の発想で生まれた」という特許技術の誕生には、押山の入社後初の挫折が大きく影響していました。

*2) 光電効果により光電流を生じる装置において、光を照射しない時にも流れている微弱な電流。熱的要因や絶縁不良のために生じる。

本発明のポイントの図

2006年に入社した押山の最初の配属先は、先端トランジスタの開発チームでした。各社がトランジスタ技術の開発でしのぎを削っている時代で、押山が配属されたチームも『世界で一番の特性をめざす』を合言葉に日々研究に取り組んでいました。しかし翌2007年、会社の方針でトランジスタの開発は中止となり、チームも解散。「ここまでやってきたので、もっとやりたい」という強い想いと挫折感を味わいました。次の配属先はCMOSイメージセンサーの開発チーム。このチームでは、目的は違いますが、トランジスタと同じ装置、同じ素材を扱っており、これまでの知見が生かせる環境でした。
「トランジスタでは固定電荷は特性を悪化させる厄介な存在でした。この固定電荷をいかになくすかというのがトランジスタの課題だったのですが、CMOSイメージセンサーの場合は、逆にこの固定電荷を使えば暗電流を抑えられるのではないか」という発想に行き着きました。固定電荷のことをずっと考えていたからこそ、逆転の発想で固定電荷を有効利用するアイディアが浮かんだのです。

わからないことはすぐに調べる
小学生時代から垣間見えたエンジニア精神

「逆転の発想」は、どのように考えついたのかを聞くと、「あるとき、ふと気づいた」という押山。なんとも簡単そうに聞こえますが、「大事なのは、考えて考えて考え続けること」。常に考え続けているからこそ、見落としに気付きます。この「考え抜く」力こそが、エンジニアにとって必要不可欠のスキルだと思いますが、このスキルは自然と身に付くものでしょうか。
もともと研究職をめざしてきたわけではないという押山ですが、知らないことがあるとすぐに調べる性格でした。印象的なエピソードとして、小学3年生の時「着ている服の色で温かさに違いがあるのではないか」と感じたため、夏休みの自由研究として、服の色による温度の上がり方の違いを研究しました。日の当たる場所に並べた色の違う布の温度上昇の違いや、ルーペで光を集めて、どの色が一番早く煙が立つかを調べたのです。知りたいという欲求、すぐに調べるという行動力は、もしかしたら、同時にものごとの事象に気付く観察力も育てたのかもしれません。疑問を疑問のままにしてはいけないという恰好の例だと思いました。

現在、仕事をする上で大切にしていることは『すぐ動く』こと。「大学の研究室にいたときは全部自分次第でしたが、企業は違います。多くの人が携わっており、一つのことが全体に及ぼす影響が大きい」からこそ、今できることは今やるように心がけています。
また、『わかるように伝える』ことにも注意を払っていて、「技術者は独り善がりになりがち。でも相手にわかるように伝えないと、自分のやりたいことをわかってもらえません。大きな企業であればあるほど、すべての意志決定のタイミングで自分が説明できるわけではありません。だからこそ、その技術はどのように使われるのかを素人でも理解できるように伝えることはとても大事なこと」。
この『すぐに動く』『わかりやすく伝える』は、実は小さいころの「わからないことはすぐに調べ」、「調べたものを伝える(自由研究で発表する)」といったエピソードでうかがえるように、意識していなくとも自然と実践していたのであろうと感じました。

SSSには、新しいものを生み出す文化がある

これからも新しい技術開発に携わっていきたいという押山。エンジニアとして大切なチャレンジ精神は、SSSにいたからこそ育まれました。「SSSは大きな裁量を与えてくれる企業です。指示を待っている人には向きませんが、自分からどんどん動ける人にとっては非常に楽しい会社」。冒頭でも紹介しましたが、彼の経歴を見ると、入社1年目で世界ナンバーワンをめざすチームに入り、2年目から携わったチームでゲームチェンジするほどの技術の開発および量産化を実現。その後も、画期的な技術を次々と確立しています。決められた要件のものを開発するのではなく、世界にまだないもの、世界ナンバーワンの技術を開発するというエンジニアとしての精神を入社1年目で学び、自由な発想とそれを実際に試してみる裁量が与えられるSSSの企業文化があったからこそ、入社2年目にして特許を取得する技術開発につながりました。
今はチームをマネジメントする立場にもなり、「これまで自分は会社に楽しませてもらってきたので、次はこうした経験を下の世代にも積ませてあげたい」とも考えているという押山。若い世代に必ず伝えたいことは、「SSSには、新しいものを生み出す文化があります。大きな裁量も与えられます。だからこそ、自分の中にコアとなる確たる技術・知識が必要」ということ。押山はトランジスタ開発で培った知識をCMOSイメージセンサーで発揮し、その後の新しい技術開発へとつなげていきました。誰にも負けない、絶対的な自信のある技術・知識があるからこそ、エンジニアとしての勘や発想の柔軟さにつながるのではないでしょうか。

令和2年度 全国発明表彰 発明賞受賞の盾

世界ナンバーワンに挑戦するエンジニアマインドが企業文化としてあり、それを実現するために必要なコアな技術・知識の確立を支援する押山をはじめとする上司がいる。脈々と受け継がれてきた「新しいものを生み出す文化」こそが、SSS開発チームの強さなのだと感じました。